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専門家コラム

第116回 年収の壁・支援強化パッケージ

2023-10-12 テーマ: 人事給与アウトソーシング

前回お伝えした通り、2023年9月27日には厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が発表されました。今回の措置の内容は、これまでの制度を大きく変えるものではなく、特例の措置を積み上げることにより、年収の壁を緩和しようとするものです。

今回は、特例措置の内容をみていきたいと思います。

 

1.106万円の壁への対応

106万円の壁への対応は、「キャリアアップ助成金の拡充」と「社会保険適用促進手当の標準報酬からの除外」の2点になります。
前回も説明したように、106万円の壁が発生するのは、社会保険の被保険者数が101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業です。

対応策を簡単にまとめると、社会保険に加入することによって減ってしまう手取りを補填するため、「企業に助成金を出して賃上げさせる」「手当で賃上げした分は社会保険の保険料の算定対象にしない」という内容になっています。

 

1)キャリアアップ助成金のコースの新設

106万円の壁への対応として、キャリアアップ助成金が拡充されることになりました。
拡充の内容は、短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、一定期間、労働者1人当たり最大 50万円を助成するというものです。

助成対象となる労働者の収入を増加させる取り組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることになっています。
また、助成金の支給申請の際は、提出書類の簡素化など事務負担も軽減される予定になっています。

 

2)社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

短時間労働者への被用者保険の適用を促進する観点から、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができることになりました。

「社会保険適用促進手当」は、労使双方の社会保険料負担を軽減する観点から、労働者本人負担分の保険料相当額を上限として最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないことになりました。
また、「社会保険適用促進手当」によって、標準報酬月額・標準賞与額の一定割合を追加支給した場合、1)のキャリアアップ助成金の対象にもなります。

 

2.130 万円の壁への対応

130万円の壁への対応として、「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」が図られました。

これまでのルールでも、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが 130 万円以上となってしまっても、すぐに被扶養者認定を取り消されずに、総合的に将来収入の見込みを判断することになっています。
しかし、実際には直近の収入が多いと被扶養者認定が取り消されるケースもあったようです。今回の対策では、この部分が明確になったということになります。

これまでは、収入を証明するために提出する書類は、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を、保険者に提出していました。
これからはこれらの添付書類に加えて、一時的な収入の増加である場合には、「人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である」旨の事業主の証明を添付することで被扶養者の認定を受けられることになりました。

この認定は、あくまでも「一時的な事情」として認定が行われますので、同一の者については原則として連続2回までが上限になります。したがって、一時的な収入変動の場合、おおむね2年間は扶養家族でいられるということになります。

 

3.配偶者手当への対応

106万円の壁、130万円の壁への対応とは別に、企業における配偶者手当の見直し促進も図られます。

企業によって配偶者手当や家族手当など名称や支給要件はそれぞれですが、配偶者に対する手当は配偶者の収入に制限を設けていることが一般的です。そのため、配偶者手当等の収入要件が、社会保障制度とともに、就業調整の要因となっていると考えられています。
そのため、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むように、厚生労働省が見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成し、公表することになりました。

配偶者手当等を見直す場合は、就業規則や給与規程等も変更する必要があります。ケースによっては、「労働条件の不利益変更」に当たる可能性もあります。
こちらは、今後見直し手順等が公表された場合に、随時紹介をしたいと思います。

 

 

今回は、「年収の壁・支援強化パッケージ」について説明してきました。今回は、行政が民間企業の施策である配偶者手当にも言及したことに大きな特徴があります。
また、被扶養者認定は行政だけでなく、健康保険組合に加入している企業ではその組合が実務を担うことになります。
今後の厚生労働省や健康保険組合の対応や詳細を注視するようにしましょう。

鈴与シンワート株式会社 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。

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