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給与計算を始める前に

(1)従業員情報の確認

●扶養控除等(異動)申告書、雇用契約書などを確認

イメージ給与計算を行うには、従業員一人ひとりの情報が必要になる。まず必要なのが「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」である。所得税を計算するために用いる書類であり、以下の4点のいずれかに「有」がある場合、所得税を計算する上で控除を受けることができ、税額が下がることがある。これら事項を最初の賃金支払日までに記入してもらう。なお、2ヵ所以上の会社から賃金の支払いを受けている場合には、一方しか提出できないことになっている。

【扶養控除等(異動)申告書での確認事項】
  1. 控除対象配偶者の有無
  2. 控除対象扶養親族の有無
  3. 本人・控除対象配偶者・扶養親族についての障害者・特別障害者の有無
  4. 本人の特例事項の有無

次に、「雇用契約書(労働条件通知書)」の内容を確認する。ここから、入社時の賃金内容やその後の契約内容の変更が分かる。その際、一般の従業員は賃金規程と雇用契約に齟齬のあるケースは少ないが、アルバイト・パートや契約従業員の場合、個々に特別な定めをしていることもあり、注意が必要である。

その他、通勤手当を支給する場合には、「通勤経路届・変更届」を用意しておくことだ。さらに、「辞令」の発行などによる月次給与の変更点がないかどうかも、事前に確認しておく必要があるだろう。

(2)「所得税」への対応

●給与所得では「源泉徴収制度」を採用

所得税への対応も、事前に理解しておくことが大切だ。そもそも所得税が課せられる所得には、「利子所得」「不動産所得」や「給与所得」「退職所得」などさまざまなものがあるが、給与計算において取り扱う所得税は「給与所得」に関するものである。原則として、月例給与と賞与が対象となる。

また、「所得税法」では「申告納税制度」を採用しているが、給与所得に関しては「給与などの支払者が支払金額から所定の所得税を差し引いて国に納付する」という「源泉徴収制度」を採っている。源泉徴収された所得税は、年末調整において1年間の所得に対する本来の税額と精算することとなっています。結果として、給与所得については源泉徴収の段階で所得税の計算がいったん完結することになる。その点からも、源泉徴収の計算は非常に重要な法的行為であると言える。

●さまざまな金額を減算して「課税所得」金額を算出し、税額を計算する

所得税の計算方法は、毎年のように改正がある。担当者による思い込みによるミスを回避するためにも、国税庁のHP「タックスアンサー」を利用したり、税務署や税務相談室などに直接確認したりするなど、情報収集に努めることが大切である。

所得税は1年間の課税所得に税率を乗じて計算する。その際、以下のような計算手順ステップを踏み、さまざまな控除等を適用して課税所得金額を算出し、最終的な税額(年調年税額)を決定する。

【所得税の計算手順ステップ】
1.「給与・賞与収入金額」を求める 「給与・賞与の総支給額」-「非課税の収入金額」
2.「給与所得金額」を求める 「給与・賞与収入金額」-「給与所得控除額」-「所得金額調整控除額」
3.「課税所得金額」を求める 「給与所得金額」-「所得控除」
4.「算出所得税額」を求める 「課税所得金額」×「税率」-「速算表による控除金額」
5.「年調所得税額」を算出する 「算出所得税額」-「住宅取得控除」など
6.「年調年税額」を決定する 「年調所得税額」×102.1%(*)
*上記で求めた「年調所得税額」に「復興特別所得税」を加算するための102.1%を乗じて、100円未満を切り捨てた金額が「年調年税額」となる。

●「課税所得金額」を求める際、対象となる「所得控除」

上記の「所得税の計算手順ステップ」の3で、「課税所得金額」を求める際に対象となる「所得控除」には、以下のようなものがある。

【対象となる所得控除の種類】
配偶者控除及び配偶者特別控除 専業主婦(夫)などのように「生活を支えられている配偶者」がいる場合に対象となる所得控除(本人及び配偶者の所得制限あり)
扶養控除 子や親のように「生活を支えられている親族」がいる場合に対象となる所得控除
障害者控除 本人や同一生計配偶者、扶養家族が「障害者」に該当する場合に対象となる所得控除
ひとり親、寡婦控除 本人がひとり親(子を有する場合)又は寡婦となる場合に対象となる所得控除(所得制限あり)
勤労学生控除 本人が学生である場合に対象となる所得控除(所得制限あり)
配偶者特別控除 「生活を支えられている配偶者」に38万円を超える所得があるため、配偶者控除の適用が受けられない場合であっても、一定の金額の所得控除が受けられるというもの

(3)「社会保険」への対応

給与計算における社会保険とは、「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」を指す。

●健康保険

日本では「国民皆保険」として、何らかの形で公的な医療保険制度に加入する義務がある。医療保険制度には、サラリーマンや公務員とその扶養家族などが加入する被用者保険と呼ばれる「健康保険(協会けんぽ、組合健保)」や「共済組合」、船員特有の「船員保険」、自営業者やフリーランス、無職の方など被用者ではない人が加入する「国民健康保険」、主に75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」の五つに分けられる。健康保険の適用事業所で勤務している場合は、会社が適用を受けている健康保険の被保険者となり、原則的に月単位の保険料負担義務が発生する。

●厚生年金保険

さらに、「国民皆保険」として、以下に示したいずれかの形で公的年金制度に加入する義務がある。その中の一つが、厚生年金保険だ。健康保険と同様、適用事業所に勤務している場合には厚生年金保険の被保険者となり、原則的に月単位の保険料負担義務が発生する。

【公的年金制度の種類と対象者】
第1号被保険者 国民年金(原則20歳~60歳未満)
第2号被保険者 厚生年金保険、共済組合(~70歳未満)
第3号被保険者 第2号被保険者(原則65歳未満)の被扶養配偶者(20歳~60歳未満)

●健康保険・厚生年金保険の適用除外

健康保険と厚生年金保険には、適用除外となる規定がある。給与計算においては、特に「臨時に短期間使用されている者」に対する適用除外に留意する必要がある。契約期間などを正しく確認した上で、制度に準じた取り扱いをすることが求められる。

【健康保険・厚生年金保険の適用除外者】
健康保険 厚生年金保険
1.臨時に使用される者
  • 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者。所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った時は、その時から被保険者となる。
  • 日々雇い入れられる者。1ヵ月を超えて引き続き使用されるに至った時は、その時から被保険者となる。
2.所在地が一定しない事業所に使用される者
3.4ヵ月以内の季節的業務に使用される者
  • 継続して4ヵ月を超えて使用される見込みのある者は、当初から被保険者となる。
4.6ヵ月以内の臨時的事業の事業所に使用される者
  • 継続して4ヵ月を超えて使用される見込みのある者は、当初から被保険者となる。
5.船員保険の強制被保険者  
6.国民健康保険組合の事業所に使用される者
7.後期高齢者医療制度の被保険者等である者
8.健康保険の保険者、または共済組合の承認を受けて国民健康保険に加入した者
  9.国・地方公共団体等の共済組合の組合員など
10.70歳以上の者

●2016年10月より、短時間労働者の加入条件が拡大

なお、2016年10月からパートタイムなど短時間労働者に対して、健康保険・厚生年金保険の加入要件が拡大した。要件の拡大に伴い、低賃金の労働者が加入対象となる可能性があるので、注意が必要である。

【加入要件拡大の内容】
  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 賃金の月額が8.8万円以上であること
  3. 勤務期間が1年以上見込まれること
  4. 学生ではないこと
  5. 厚生年金の被保険者数が常時501人以上の規模の企業を強制適用対象とすること

従来から、「1週間の所定労働時間」と「1ヵ月間の所定労働日数」が、同一事業所の通常の労働者の所定労働時間及び所定労働日数の4分の3以上である短時間労働者は被保険者としなければならない「4分の3基準」と呼ばれるものがあった。労働時間が短い労働者であっても、一定の基準を満たすと被保険者となるので、パートタイマー、アルバイトなどの名称にかかわらず、勤務実態で判断する必要がある。

また、2017年4月からは、常時500人以下の規模の企業でも労使の合意により申出をすれば、短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の適用対象とすることができる。そして、法改正により、2022年10月から企業規模の適用要件が現行の「500人超」から「100人超」、2024年10月からは「50人超」に段階的に引き下げられる予定だ。併せて、短時間労働者の勤務期間も、2022年10月からは「勤務期間が1年以上見込まれること」から「勤務期間が2ヵ月以上使用される、または見込まれる」と変更される予定になっている。企業としては、今後の動向にも注意が必要である。

●雇用保険

雇用保険は、失業等給付・育児休業給付・雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)を行う公的な制度である。労働者を1人でも雇用する事業所は原則すべて雇用保険の適用事業所となり、被保険者がいれば保険料を負担する義務が発生する。その際、「週の所定労働時間が20時間未満」「同一の事業主に継続して31日以上雇用される見込みがない」などの適用除外条件に該当しない限り、会社の事情や本人の意思にかかわらず、被保険者となるので注意が必要である。

●労災保険

労災保険は、労働基準法の災害補償に基づいて事業主の責任を代行する機能を持ち、「労働者災害補償保険法」に定められた業務上の負傷・疾病等に関する災害補償のほか、通勤災害に対する保険給付などを行い、被災者やその遺族を援護する制度である。労働者を1人でも雇用する事業所は原則加入しなければならず、すべての労働者が対象となる。その保険料は、事業主が全額を負担することになっている。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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