「マイナンバー」への対応
(1)社会保障・税の分野で扱われるマイナンバー
●マイナンバーとは何か
マイナンバーは、日本に住民票を有する(外国人を含む)一人ひとりに対して、重複しない12ケタの固有の識別番号を付与し、所得や社会保障などに関する個人情報を管理するものである。これにより、公平な給付や税負担を実現し、行政サービスの効率化や国民の利便性向上を図ることを目的としている。2016年1月の導入後、企業においては税や社会保険、雇用保険関係の事務処理を行う際には、従業員のマイナンバーを記載した新しい様式の調書・申告書類を関係機関に提出する必要性が出てきた。
これまでも企業では以下のような番号を会社で管理していたが、特に相互の連携機能はなかった。マイナンバー制度が導入されることによって、これらの情報とのひも付けが可能になる。
健康保険被保険者番号 | 日本年金機構、協会けんぽ、健康保険組合関連 |
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基礎年金番号 | 日本年金機構関連 |
雇用保険被保険者番号 | ハローワーク関連 |
●マイナンバーで求められる対応
マイナンバーを取得、利用、管理する際には、以下のようなことが求められる。
目的外利用の禁止 | マイナンバーは「社会保障・税・災害対策」の事務において、必要な限度で利用することが可能である。従業員などからマイナンバーの提供を受ける場合には、利用目的を明らかにしなければならない。また、会社で管理する社員番号などにマイナンバーを利用するなど、本来の目的以外で使用することはできない。 |
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提供の求めの制限 | 取引先の担当者など、必要のない人からマイナンバーの提供を受けることはできない。 |
本人確認の措置 | なりすましなど、悪用されることを防ぐため、マイナンバーの提供を受ける際には本人確認をすることが必要である。 |
情報の安全管理 | マイナンバーを管理するため、アクセス制限を掛ける、退職などで不要となった番号を削除するなど、企業には厳格な保護措置が求められる。また、マイナンバーが悪用された場合には甚大な被害が生じる可能性があるため、状況に応じて罰則が定められている。 |
では、マイナンバー制度の運用に際し、企業はどのような対応を求められているのか。税分野では税務署に提出する法定調書(源泉徴収票・支払調書)など、社会保障分野では健康保険、厚生年金保険、雇用保険の資格取得届などにおいて、従業員などのマイナンバー記載が求められる。つまり、マイナンバー制度導入後、「給与や役員報酬、業務報酬の支払いに向けてマイナンバーを取得すること」「所得税の計算や社会保険関係の手続きを行う場合は、被扶養者を含めてマイナンバーを取得しておくこと」が企業に求められる。
税分野 |
給与所得の源泉徴収票 退職所得の源泉徴収票 報酬、料金、契約金、賞金の支払調書 給与支払報告書 など |
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社会保障分野 |
雇用保険被保険者資格取得(喪失)届 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得(喪失)届 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届 健康保険・厚生年金保険産前産後休業/育児休業等取得者申出書・終了届 など |
(2)マイナンバーへの対応実務
●マイナンバー対応が必要な業務の洗い出し
マイナンバーへの対応実務を考えた場合、まず以下の六つの措置が求められる。
1.基本方針の策定 | マイナンバーの取り扱いに関する基本方針を策定する |
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2.マニュアルの策定 | マイナンバーの取り扱いに関する取扱規定(マニュアル)を策定する |
3.組織的安全管理措置 | 会社の組織体制を整備し、マイナンバーの取り扱い、状況確認、漏えい等への対応を確立する |
4.人的安全管理措置 | 責任者、事務取扱担当者を監督、教育する方法を確立する |
5.物理的安全管理措置 | マイナンバーを取り扱う場所(取扱区域)の明確化、盗難・漏えい防止方法の確立、マイナンバー情報の削除・電子媒体等の廃棄方法の明確化を行う |
6.技術的安全管理措置 | マイナンバーへのアクセス制御やログ管理、不正アクセス防止を確立する |
給与業務担当者は、給与・報酬を支払う従業員・役員のマイナンバーの収集・管理を行わなければならない。加えて、報酬支払いにかかわる支払調書や社会保険の手続きなどでも、マイナンバーが必要となる場面は多々ある。そのため、マイナンバーが必要となる帳票類・対象者をピックアップした上で、業務手順を確認しておく必要がある。
確認した業務手順を基に、「対象者をどのように把握するのか」「どのようにマイナンバーを取得するのか」「どのように管理するのか」「どのように廃棄するのか」などを検討。その上で、「どの時点で」「どの書類で」「どの担当者が進めるのか」を決定する。
担当:人事部 | 内容 |
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帳票類 | 源泉徴収票(給与支払報告書) 雇用保険の手続き書類 健康保険・厚生年金保険の手続き書類 |
取得対象者 | 給与・退職金支払い対象者 雇用保険の被保険者 健康保険・厚生年金保険の被保険者 健康保険の被扶養者 |
業務手順 |
源泉徴収票(給与支払報告書)
健康保険・厚生年金保険・雇用保険
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担当:経理部 | 内容 |
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帳票類 | 報酬の支払調書 |
取得対象者 | 外部の業務委託者(弁護士など) |
業務手順 | 支払調書
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●安全管理に関する検討
情報漏えいが大きな問題となっている中、取得したマイナンバーを誰が管理し、いつまで保存するのか、どのようにアクセス制限を掛けるのかなども、あわせて検討する。保存期限が切れたマイナンバーが記された書類は、早急に廃棄しなければならないからだ。例えば、扶養控除等申告書の保存期限は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を経過する日までとなっているが、これを超過してマイナンバーが記してある扶養控除等申告書を保存することはできない。
通常、給与担当者が保存する帳票の保存期間を例示すると、以下の通りとなる。これら全てにマイナンバーが記載されているわけではないが、保存期限を超過した書類は速やかに廃棄できるよう、マイナンバー制度の導入に伴い、帳票類の管理をあらためて見直す必要がある。
法令 | 主な帳票類 | 保存期間 |
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労働基準法 | 労働者名簿 雇入れ・退職に関する書類 |
退職日から5年 |
賃金台帳 | 最後の記入日から5年 | |
健康保険法 厚生年金保険法 |
資格取得等確認通知書 標準報酬月額決定通知書 |
退職日から2年 |
雇用保険 | 資格取得等確認通知書 離職証明書 |
退職日から4年 |
所得税法 | 扶養控除等申告書 源泉徴収簿 など |
提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を経過する日 |
以上、検討してきた事項をベースに、マイナンバーの管理・保護の方法を具体化、書面化し、必要な部署に対応を求めることが大切である。