給与支払の「ルール」
(1)給与の決め方と支払い方のルール
●給与の決め方は会社の自由だが、支払い方には五つのルールがある
給与額は、「最低賃金法」で定められている最低額以上であれば、どのような算出法であっても、またどのような根拠で決定したとしても、それは会社の自由である。つまり、給与の決め方は、会社側に裁量権があるのだ。とはいえ、従業員がモチベーションを感じ、継続して働きたいと思える内容でなければ、会社経営を継続していくことは難しいだろう。従業員が納得するような基準を設け、給与を決めるのが一般的である。そこで、会社ごとに人事制度を構築し、給与の決定方法や賞与の算出根拠などを決めていくことになる。
それに対して、給与の支払い方は「労働基準法24条」において、一定のルールが定められている。いわゆる「賃金支払いの5原則」であり、給与を支払う際に、会社にはこれら五つの原則を守る義務がある。
【賃金支払いの5原則】
1.通貨払いの原則 |
賃金は、原則として通貨で支払わなければならない。なお、小切手は通貨に含まれない。ただし、次の場合は通貨以外のもので支払うことができる。
→「金融機関の自己宛小切手」「金融機関の支払い保証小切手」「郵便為替」
また、賃金の口座振り込みによる支払いについては、労働者の同意を得て、指定する本人の口座に振り込むことができる。 |
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2.直接払いの原則 | 賃金は、直接労働者に支払わなければならない。労働者の代理人に支払うことはできないが、労働者が病気などの場合に、その使者(家族など)に支払うことは差し支えない。 |
3.全額払いの原則 |
賃金は原則として、全額を支払わなければならず、その一部を控除して支払うことはできない。ただし、次の場合は全額支払いの原則に違反しない。
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4.毎月払いの原則 |
賃金は、毎月1回以上支払わなくてはならない。ただし、次の賃金については毎月1回の支払いでなくても差し支えない。
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5.一定期日払いの原則 | 賃金は、周期的に到来する一定の期日を定めて支払わなければならない。なお、一定期日払いの原則についても、上記の「毎月払いの原則」と同様の適用除外が定められている。 |
(2)給与支給時に必要な手続き
●所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、社会保険料の控除の代行手続きを行う
会社には給与を支給する際、従業員一人ひとりが負担すべき税金や社会保険料を算出し、給与の支給額から控除した上で、まとめて納付するという代行手続きを行う義務がある。具体的には所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、社会保険料の控除である。
【給与支給時に必要な手続き】
所得税の源泉徴収 | 所得税は、本人が所得金額とそれに対する税額を計算して申告・納付することが建前であるが、給与所得に関しては、その支払者が給与を支給する際に所得税を徴収し、納付する「源泉徴収制度」が採用される。支払者である会社は、毎月、給与を支給するたびに源泉所得税を徴収する義務を負う。 従業員が入社した場合、その従業員に最初の給与が支払われる前までに、支払者である会社へ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらう。その提出を受けて、会社は給与の支払いと源泉所得税の控除を開始する。なお、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出がないと、毎月の源泉徴収額は乙欄適用となり、高くなる点に注意が必要だ。 |
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住民税の特別徴収 | 住民税は、会社で「特別徴収」の手続きをしている場合は、源泉所得税と同様に会社が給与を支給する際に控除して、納付する。 |
社会保険料の控除 | 所得税、住民税のほかにも、社会保険として毎月の給与から従業員本人が負担する健康保険料(介護保険料)と厚生年金保険料、雇用保険料を控除する。この場合、それぞれの保険の加入要件を満たす人に限る。 |