「毎月の給与」計算の仕方
(1)勤怠項目、支給項目、控除項目の計上
●勤怠項目とは
毎月の給与(月次給与)を計算するためには、勤怠項目や支給項目、そして控除項目を計上する必要がある。勤怠項目は、従業員のその月の勤務状態を記載する項目であり、具体的には「労働基準法」で賃金台帳に記入しなければならない「出勤日数」「総労働時間」「時間外労働時間」「休日労働時間」「深夜労働時間」などがあり、これらは必ず把握し、記載する必要がある。そして、「欠勤日数」「不就労(遅刻時間、早退時間、私用外出時間)」を記載しておく。これは、日給月給制における勤怠控除の計算のためにも必要となる項目だからだ。
総労働時間 |
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●支給項目とは
支給項目は、何に対して給与を払うかを示す項目である。その際、まず考えるのは「固定給」である。業績などに左右されず、毎月定額が支給される月次給与であり、これには完全月給制や日給月給制における「基本給」「役職手当」「通勤手当」などがある。また、「変動給」を考えた場合、「時間外手当」「休日手当」「深夜手当」などが当てはまり、月次給与の計算の度に確認と処理が必要となる。
総支給額 |
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●控除項目とは
給与から社会保険料や税金を差し引くのが控除項目である。いわゆる「天引き」と呼ばれるものであり、「健康保険(介護保険)」「厚生年金保険」「雇用保険」などの社会保険、「所得税」「住民税」などの税金が該当する。「健康保険(介護保険)」「厚生年金保険」「雇用保険」の保険料率は毎年変更されることがあり、また、「所得税」の計算方法も税制改正によって変更されることがある。「住民税」も従業員ごとに収入や住んでいる市区町村によってそれぞれ金額が異なるため、確実に手続きを行う必要がある。
健康保険(介護保険)、厚生年金保険 | 健康保険(介護保険)、厚生年金保険の月次給与に対する保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じた金額となり、この金額を被保険者と事業主が折半で負担する。なお、事業主のみ「子ども・子育て拠出金(旧・児童手当拠出金)」として、標準報酬月額に保険料率を乗じた金額をさらに負担することになる。これらを合わせた金額を、事業主が年金事務所(健康保険組合)へと納付の手続きを行う。健康保険料は、協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合は都道府県ごとに、健康保険組合の場合は加入する健康保険組合ごとに料率が異なるため、それぞれの料率表で確認して算出する。 |
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雇用保険 | 雇用保険の保険料は原則として「総支給額」に保険料率を乗じた金額であり、この金額を被保険者と事業主がそれぞれ決められた割合で負担する。一般の事業と農林水産・清酒製造の事業、建設の事業でそれぞれ保険料率が異なり、労働者と事業主の負担割合が異なることにも注意が必要である。 |
所得税 | 所得税は、その年の1月から12月までの1年間における「総支給額」に対してかかるものである。その際、決められた計算手順の下、さまざまな金額を減算して所得税額が決定され、控除が行われる。 |
住民税 | 住民税は、都道府県が徴収する都道府県民税と、市町村が徴収する市町村民税の総称である。住民税は「特別徴収」として課税された場合に、控除を行う。毎年5月下旬に「市町村民税・都道府県民税 特別徴収税額の決定通知書」が会社宛に届くので、その通知書に記載された金額を控除していく。 |
その他 | 社会保険料、所得税、住民税以外の金額を賃金から控除する場合は、労使協定(労働協約)が必要である。一般的な項目としては、「親睦会費」「組合費」「財形貯蓄積立費」「団体加入の生命保険料・損害保険料」「仮払金」などがある。 |
総控除額 |
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(2)支払い業務
●「総支給額」から「総控除額」を差し引いた「差引支給額」を、現金で直接支払う(同意を得れば振り込みも可)
支給項目欄の「総支給額」から、控除項目欄の「総控除額」を差し引いた金額が「差引支給額」となり、これが従業員に対する支払額となる。
- 【勤怠項目】
- ・出勤日数
- ・欠勤日数
- ・時間外労働
- ・休日勤務
- ・深夜勤務
- ・不就労
- ・総労働時間
- 【支給項目】
- ・基本給
- ・役職手当
- ・時間外手当
- ・休日手当
- ・深夜手当
- ・不就労控除
- ・通勤手当
- ・総支給額
- 【控除項目】
- ・健康保険
- ・うち介護保険
- ・厚生年金保険
- ・雇用保険
- ・社会保険料合計
- ・課税対象額
- ・所得税
- ・住民税
- ・財形貯蓄などその他控除
- ・総控除額
- 【集計】
- ・差引支給額
- ・年末調整
労働基準法では労働者へ現金で直接支払うことが原則となっているが、現在は銀行口座などへの振り込みが一般的であり、本人の同意があれば問題はない。ただし、賃金を振り込みによって行う場合は、以下に示した条件が必要である。また、振り込みを行うことについての労使協定も必要となる。
本人の同意を得ること | 同意に関しては、形式を問わない。書面でなくても、口頭でも構わない。ただ口座の指定は、書面により行う必要がある。また、同意を得られなかった従業員については、現金によって直接支払いをしなければならない。 |
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本人の口座であること | 本人が指定する金融機関の本人の預金・貯金への振りこみ、あるいは証券会社の本人の預り金への振り込みであることが必要となる。 |
支払日の午前10時頃までに払い出し、払い戻しが可能となっていること | 振り込み・払い込みがされた賃金は、所定支払日の午前10時頃までに払い出し、または払い戻しが可能となっていなければならない。午後になって出金可能という状況は認められない。 |
(3)月次給与支払いの後処理
●明細書の交付
月次給与の支払いの後処理として、以下の事項を従業員に通知する義務がある。これについては、「総支給額」が記された「月次給与明細書」の内容事項を、そのまま交付すれば問題ない。
最近では、源泉徴収票や給与明細書を電子メールや社内LANなどを利用して交付するケースが増えている。これは、所得税法で本人の承諾を得れば電子交付ができるようになっているからだ。しかし、電子交付においても、映像面への表示と書面への出力ができることが必要である。また、本人の承諾が得られていたとしても、書面による交付の請求があったときには、書面により交付しなければならない。
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
- 源泉徴収税額、労働者が負担すべき社会保険料額など賃金から控除した金額がある場合には、その事項ごとにその金額
- 口座振り込みを行った金額
- 【参照】
- 1. 基本的な事項|国税庁
- 所得税法|e-Gov
●賃金台帳の作成
賃金台帳の作成(保存)は、「労働基準法」によって罰則付きの義務となっている。正社員はもちろんのこと、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員、契約社員、そして日雇い労働者についても作成しなくてはならない。労働基準監督署の調査では、必ずチェックされる重要文書である。その際、以下に示した必要事項を記載した賃金台帳を作るわけだが、電子媒体などによる作成も可能なので、遅延なく作成することが望まれる。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
- 控除金額
●労働時間の確認
後処理として、労働時間の確認も忘れてはならない。時間外労働・休日労働に関しては、「時間外労働および休日労働に関する協定(36協定)」で上限を定めており、この上限を超過していないかどうかを確認する必要があるからだ。また、月の時間外・休日労働が1ヵ月当たり80時間を超え疲労の蓄積が認められる時は、労働者の申し出を受けて医師による面接指導を行うことが義務付けられている(「労働安全衛生法66条の8」)。これらの状態に当てはまる時には、月次給与を処理した後に、該当する従業員へ面接指導の申し出を行うよう通知することが必要だ。
●預かった金額の処理
従業員から預かった健康保険料と厚生年金保険料は、納期限(通常は当月末日)までに、納付手続きを済ませる。同時に、所得税と住民税も納期限(通常は翌月10日)までに、給付手続きを済ませておく。