第38回 退職者の社会保険料徴収とタイミング
給与や賞与から社会保険料を徴収するときに注意が必要なもののひとつに、退職者の社会保険料があります。
会社の担当者の方から、「退職者から社会保険料を取りすぎてしまった」「退職者から保険料を取るのを忘れてしまった」といった相談もしばしば受けます。
今回は、退職者の社会保険料の徴収方法についてみていきたいと思います。
<給与や賞与から控除するもの>
毎月の給与や賞与から控除するもので、法律で定められているものを「法定控除」といいます。法定控除項目としては、以下のものがあげられます。
1)社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)
2)所得税
3)住民税
また、法定控除以外にも財形貯蓄や生命保険料、社員旅行の積立金など、会社と社員との取り決めである労使協定で定めた項目については、給与や賞与から控除することができます。
会社独自で控除している項目がある場合は、退職者について控除するのかしないのか、あるいは年の途中で退職した場合に返金するのかなど、明確なルールを定めておいた方がよいでしょう。
法定項目のうち、社会保険料は、被保険者負担分を会社は毎月の給与から控除し、会社負担分と合わせて国に納める仕組みになっています。
この仕組みは、月々支払われる給与だけでなく、賞与についても同じです。
<退職者の給与から控除する社会保険料>
1)雇用保険料
雇用保険料については、給与支払のつど、給与総額に応じて控除を行います。退職した後に支払われる給与であっても通常の計算方法で控除します。
2)健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料については、被保険者資格を取得した月から「資格を喪失した月の前月」までの分を「月単位」で納めることになっています。
退職者の徴収事務にミスが多い理由として、退職日=喪失日ではなく、喪失日が退職日の翌日になる点があげられます。
それでは、具体的な例をあげてみましょう。
(例1)10月31日退社の場合
喪失日は、退職日の翌日となるので11月1日になります。そのため、喪失した月の前月である10月分までの保険料を徴収する必要があります。
(例2)10月30日退社
喪失日は、10月31日となります。そのため、喪失した月の前月である9月分までの保険料を徴収する必要があります。
つまり、月末に退職したのでなければ、最後の月の保険料は必要ないことになります。ただし、入社した月に月末まで在籍せずに退職してしまった場合は、原則としてその月の保険料が必要になります。
社会保険料は、その月の保険料をその月の支払日で徴収している会社(当月徴収)と、翌月の支払日で徴収している会社(翌月徴収)がほとんどです。
自社が当月徴収なのか翌月徴収なのかは、入社した最初の給与で社会保険料を徴収しているか否かで判断してください。
当月徴収の会社では、上記の(例1)であれば10月支払い給与まで、(例2)であれば9月に支払う給与まで保険料を徴収することになります。
翌月徴収の会社では、上記の(例1)であれば11月支払い給与まで、(例2)であれば10月に支払う給与まで保険料を徴収することになります。
翌月徴収の会社では、給与の締め日と退職日のタイミングによっては、11月に支払う給与がないこともあります。この場合は、10月に支払う給与で2か月分の社会保険料を徴収しておかないと、最後の保険料が本人から徴収しそびれることもあります。ご注意ください。
<退職者の賞与から控除する社会保険料>
1)雇用保険料
雇用保険料については、退職後に支給する賞与であっても通常の計算方法で控除する必要があります。
2)健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、社員が「賞与の支給を受けた月の末日まで在籍していた場合」にのみ、保険料を控除します。
(例)賞与支払日が8月10日だった場合
・8月15日退職 在職中に支払われた賞与であっても、保険料は控除しません。
・8月31日退職 賞与からも保険料を控除します。
従業員から控除した社会保険料と、実際に年金事務所等から請求された金額に相違が起きているようであれば、正しく社会保険料が控除されているかの再確認を行った方が良いでしょう。
鈴与シンワート株式会社 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問 | |
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。 (有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。 |
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