第11回 年間の給与計算の流れ
給与計算関連事務には、毎月の給与計算事務や所得税等の納付手続きのほか、毎年決まった時期に行わなければならない事務があります。確実に給与計算事務を行っていくには、1年間のスケジュールを把握しておく必要があります。
今回は、給与計算の年間スケジュールの流れについてみていきます。
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年間で特定の時期に行わなければならない給与計算関連事務や社会保険関連手続きには、次のようなものがあります。
<1月に行う税務関係事務>
前年分の「給与所得の源泉徴収票」を3枚作成し、1枚を本人へ、残りの2枚は1月1日現在で社員(給与所得者)が住んでいる市区町村へ「給与支払報告書(総括表)」とともに提出します。これは、新年度の住民税を決定する基礎データになります。
給与収入が一定額以上(年末調整をした一般の社員であれば年間500万円を超える場合)の方については、さらに源泉徴収票をもう1枚作成し、「法定調書合計表」に添付して税務署へ提出します。
また、1月の給与計算に間に合うように、その年の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。この申告書に基づいて、1月以降の所得税の源泉徴収額を計算します。これは前年の年末調整時に提出してもらう会社が多いようですが、年が変わることにより扶養親族数に変更がある方がいますので、忘れずに給与マスタを変更します。
<6月は住民税の特別徴収額改定>
住民税の特別徴収額の改定を行います。住民税の特別徴収は6月から翌年5月まで均等額が徴収されますが、6月は端数調整で他の月と金額が異なることがあります。その場合、7月に改めて特別徴収額を変更しなければなりませんので、月ごとの住民税額をしっかり確認しましょう。
<6月1日~7月10日は労働保険の年度更新>
6月には、労働保険の年度更新事務も行わなければなりません。労働保険の保険料の申告と納付は7月10日までに行います。(曜日の関係で若干変動する年があります。)
<7月は標準報酬月額の定時決定>
健康保険、厚生年金保険の算定の基礎となる「標準報酬月額」の定時決定を行います。
「報酬月額算定基礎届」を年金事務所や健康保険組合に、7月1日から7月10日までの間に提出します。その際、4月から昇給があった方の「標準報酬月額変更届」もあわせて提出します。
また、6月ないし7月は夏季賞与が支給されることが多い月です。賞与計算を行い、賞与から控除した健康保険料と厚生年金保険料を「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」で年金事務所や健康保険組合に届け出ます。
<12月は年末調整>
12月は所得税の年末調整を行います。1年間の所得税額を計算し、月々源泉徴収した所得税額の合計額との差額を清算します。一般的には、12月分の給与で超過額を還付もしくは不足額を徴収します。
また、11月ないし12月は冬季賞与が支給されることが多い月です。先ほど同様、賞与から控除した健康保険料と厚生年金保険料を「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」で年金事務所や健康保険組合に届け出ます。
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一般的な企業を例にして、給与計算とそれに付随する事務のスケジュールを紹介します。
昇給や昇格、賞与の支給月、あるいは社会保険料等の徴収のタイミングは会社によって異なるので、各社の実態に読み替えて見ていただければと思います。
1月
- 扶養控除等(異動)申告書の受理
- 前年から扶養親族数が変更になる方のマスタ修正
- 法定調書合計表の提出(1月31日までに、税務署へ提出)
- 給与支払報告書の提出(1月31日までに、各市町村へ提出)
4月
- 新入社員の給与計算開始
- 給与改定、異動、昇進による給与の固定項目(住宅手当や役職手当)の改定
- 新入社員の扶養控除等(異動)申告書の受理
- 新入社員の被保険者資格取得届の提出(健康保険・厚生年金保険は入社から5日以内、雇用保険は翌月10日まで)
- 健康保険、介護保険、雇用保険の料率の変更
- 高年齢労働者(4月1日現在で64歳以上)にかかる雇用保険料の免除開始
6月
- 住民税特別徴収税額の改定
- 労働保険料の概算・確定保険料申告書の提出(6月1日~7月10日)
7月
- 夏季賞与の支給
- 賞与支払届の提出(支給から5日以内)
- 社会保険の月額変更届の提出(4月に固定的賃金の変動があった場合)
- 社会保険の算定基礎届の提出
8月
- 7月月額変更による社会保険料改定(8月給与)
10月
- 厚生年金保険の料率の改定
- 算定による社会保険料改定(10月給与)
11月
- 年末調整書類を社員に配布
12月
- 冬季賞与の支給
- 賞与支払届の提出(支給日から5日以内)
- 年末調整、源泉徴収票の作成
雇用保険、健康保険、介護保険の料率は、毎年変更されるものではなく、また時期も多少ずれる場合があります。給与計算の担当者は、給与計算だけでなく、その周辺知識も持っていなければなりません。
給与計算を間違ってしてしまった際に「知らなかったから」と言い訳をすることはできません。従業員との信頼関係を崩さないように、給与計算の担当者は法改正等の情報を常に意識して収集していく必要があります。
鈴与シンワート株式会社 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問 | |
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。 (有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。 |
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