給与計算ソフトの活用と選定方法
(1)多様な給与計算ソフトの種類
●従業員規模やユーザーのニーズに合わせた製品・サービスが展開
給与計算は毎月行う定型的な業務であり、給与支給日までには絶対に完了しなければならない、非常に時間的制約のある業務でもある。省力化・スピード化を図るために「給与計算ソフト」を活用するのは、非常に有効だと言える。事実、給与計算ソフトは人事関連の業務支援ソフトとして、最も普及しているものの一つである。
給与計算を行う場合、数人程度の規模企業でも専用の給与計算ソフトを使って、業務の効率化を図っている。そして、従業員数が増えてくるに伴って、人事管理ソフトや勤怠管理ソフト、会計ソフトなどと連携のできる総合型パッケージタイプのソフトを導入するケースが多い。さらに大企業になると、タレントマネジメントシステムなどの導入により、基幹情報システムの中に「給与計算機能」が備わっているのが一般的である。自社の人事・給与制度に合わせて、自在にカスタマイズしているケースが多いようだ。
このように給与計算ソフトは、従業員規模や利用目的に合わせて、さまざまな製品・サービスがリリースされている。さらに、パート・アルバイトなど正社員以外の雇用形態が多い企業、人材派遣会社などのように複雑な給与計算を行う企業などに対して、その実情に合わせた製品も開発されている。また、給与計算の一部のみをアウトソーシングしたいというケースに対応した製品があるなど、各企業の実情に応じた多様なサービスが展開されている。金額は、パッケージソフトなどは1万円前後から、大規模なものは開発費用も含めて数百万から数千万円に達することもある。
(2)給与計算ソフトを活用するメリット
●業務効率化・コスト削減などに大きく寄与
ユーザーに合わせ、多様な製品・サービスが展開されている給与計算ソフトであるが、具体的にどのようなメリットがあるのか、以下にまとめてみた。
業務の効率化・コスト削減 | 給与計算における定型業務の多くを自動化するため、業務効率化が図られ、コスト削減に大きく寄与する。特に、中堅・中小企業向けの製品は低コストの製品が多く、大きなコスト削減効果が期待できる。また、給与明細も電子配布する機能を持つ製品が増えており、明細書配布コストの削減に効果を発揮している。 |
---|---|
法令改正への迅速な対応 | 労働関連の法令や社会保険の制度は頻繁に改正されるので、その内容を正しく把握し、給与計算に反映させていく作業は大きな負担である。給与計算ソフトを活用すれば、年度の途中で改正があった場合も、修正プログラムを配布してくれるので、法令改正への対応を迅速に行うことができる(対応契約をしている場合)。 |
業務における属人的要素の削減 | 給与計算業務を担当する従業員には、相応の給与制度や関連法規に対する知識と理解が求められるが、そのための人材の確保・育成は企業にとって大きな課題だった。しかし、給与計算ソフトを活用すれば、誰が担当しても高いレベルでの対応が可能になる。法令・制度の改正もあまり意識しなくて済むので、これまでのような給与計算のスペシャリストを配置しなくても、業務を円滑に行うことができる。 |
従業員の利便性向上 | 給与に関する各種申告書などに関して、ネット経由で提出できる製品が増えたことにより、面倒な書類の作成・提出の手間を削減できるようになった。その結果、従業員にとっての利便性が非常に高まっている。 |
(3)給与計算ソフトの選定方法
●基本機能を備えた上で、利用目的を明確にして選定する
現在、ほとんどの企業で給与計算ソフトを利用している。その中で、自社で開発したソフト(システム)を使っているのは2割程度で、残りの8割が何らかの市販の給与計算専用ソフトを利用していると言われる。市販ソフトを購入する場合、基本的に押さえておきたい機能は次の点である。
- 年末調整の機能
- エクセルへのデータコンバージョン
- 独自の計算式の登録
- 他のデータベース(業務ソフト)との連動
- ネットワークへの対応
- 部門別管理の可否
基本機能を抑えた上で、給与計算ソフトを選定する際のポイントを、以下にまとめてみた。
従業員規模 | 従業員数の少ない企業では、基本的な機能を備えた低価格の製品で間に合う。しかし、従業員数が増えるに従い、人事情報や勤怠データを入力する作業が膨大となるので、他のデータベースと連動が可能な高度な製品を選ぶのがいいだろう。 |
---|---|
機能 | 低価格帯の製品は、機能が絞り込まれている場合がある。特に年末調整については、アウトソーシングする企業向けに機能を絞り込んだ設計となっているため、自社内で行う企業には不向きである。目的を明確にし、「何ができる(できない)製品」なのかを確認した上で、購入することがポイントだ。 |
将来への対応 | 規模が小さい時にはあまり意識しなくてもよいが、会社が成長し、規模が大きくなってきたら、他の業務ソフトとの連動、ネットワーク対応、部門別管理などを想定した上で、購入する製品を考える必要がある。 |
費用対効果 | 高機能製品を購入しても、使われなければ意味がない。また、毎年のサポート契約内容など、得られる効果とコストを考えた上で、どのような製品を購入すべきかを考えるべきである。 |
(4)給与計算ソフト導入に当たっての留意点
●活用目的を最大化するために、事前準備を怠らない
給与計算ソフトを社内に導入するにあたり、留意すべき点をまとめてみた。
担当者の検討・見直し | 給与計算ソフトを導入しても、効率化を実現できなくては意味がない。そのため誰が担当し、どの程度の人員でオペレーションするのが最適なのかをしっかり検討する必要がある |
---|---|
社内制度の見直し | 市販されている給与計算ソフトは、さまざまな企業の業務フローを踏まえた上で開発されたものである。そのため、従業員規模の少ない企業の場合は、給与計算ソフトの導入に当たり、既存の社内制度、業務フローを購入したソフトに合わせるといった、見直しも必要になるだろう。 |
コンサルタント・営業担当の活用 | ある程度以上の製品になると、開発元のコンサルタントがさまざまな相談に対応してくれる。また、低価格の製品でも、営業担当からアドバイスを受けることは可能である。新しい給与計算ソフトを導入するに当たっては、分からない点も多いので、外部の知識・知恵を活用することが大切だ。 |
活用目的・イメージを共有・徹底する | 給与計算ソフトの導入により、どんなことを実現するのか。それによって、どのようなメリットがもたらせるのか。従業員にはどのような対応が求められるのか。活用の目的やイメージなどを事前に社内で共有し、周知徹底しておく。 |